年下の男の子♪



「ジャン様ってとっても可愛らしい感じよね?」

「そうですわね。可愛い弟みたいで。」

聖乙女候補生3人のお茶会の最中、なんとなく聖騎士達のお話になってファナとミュイールの会話を聞いた瞬間、思わずアシャンは香り高い紅茶をむせそうになった。

「ジャン様が?!」

「え?アシャンどうしたんですの?」

思いがけない程大きな声が出てしまったアシャンにびっくりして2人が彼女を見る。

「あーあー、大丈夫?」

むせそうになったアシャンの背中をファナがさすってくれる。

「ご、ごめん。」

「それはいいけど・・・アシャンはジャン様が可愛いと思わないの?」

「う゛・・・・や、その・・・可愛いわよね!うん、ジャン様は可愛いわ!」

一瞬言い返そうとしてアシャンはあわてて首を振って笑ってごまかした。

しかし心の中では力一杯力説していた。

すなわち・・・

(ジャン様が可愛い?!そんなことないわ!彼は・・・絶対くせ者よ!!)








―― もちろん、アシャンだって最初っからジャンにそんな評価を下していたわけではない。

むしろ最初はミュイールやファナ以上にジャンを可愛いと思っていたのだ。

凛々しかったり、恐ろしくたちふるまいの美しかったりする聖騎士達の中に一人、親しみやすそうな笑顔を浮かべたジャンは一際可愛らしく見えたのだから。

だからアシャンは特別授業もよくジャンの法術をうけていたし、お休みの日もよくジャンと過ごしていた。

無邪気にはしゃぐジャンはまるで弟みたいでアシャンは・・・そう、完全に油断していた。






―― 先週の日曜の事だった。

その日は天気がよくって気持ちのいい日だったからアシャンは約束はしていなかったけれどジャンを誘って森林公園に出かけた。

「今日はとってもお天気がよくて、風も気持ちいいね!」

「そうですね。ジャン様。」

空に輝くお日様にも負けない元気な笑みを浮かべて聞いてくるジャンにアシャンも笑い返す。

森林公園には天気がいいわりには他の人の姿はなかった。

「ほら、アシャン!あんな所に可愛い花が咲いてるよ。」

「あ、ジャン様!待ってください。」

たっと今にも走っていきそうなジャンにアシャンは一瞬あわてた。

その瞬間



「あっ?!」

「アシャン!」

トサッ!



足下の小さな石につまづいてしまったアシャンを間一髪、ジャンが抱き留めた。

「あ、ありがとうございます。」

自分のドジさが恥ずかしくて慌てて離れようとしたアシャンは驚いた。

離れようとしてもジャンの腕がしっかり抱き締めてびくともしないのだ。

「ジャ、ジャン様?」

「・・・アシャン。」

耳元で囁かれた声がいつもより少し低い気がしてアシャンはどきっとする。

「アシャン・・・僕といる時、君は誰の事を考えてる?」

「えっ?」

言葉の意味を掴みかねたアシャンがキョトンとしているとジャンがすっと離れてアシャンの瞳を覗きこんだ。

その瞳がいつものジャンとまるで違う、瞳の奥に光を宿しているような視線に途端にアシャンの鼓動が高鳴って、居心地が悪くなる。

そんなアシャンに気付いているのか、いないのか、ジャンは大人びた笑みを浮かべると言った。

「僕といる時、違う人の事を考えているのか知りたいんだ。
・・・アシャンの心には誰がいるの?」

ジャンの視線と声にアシャンはバクバクと騒がしい心臓をて答えに窮した。

と、次の瞬間、すっとジャンの瞳が近づいて・・・



ちゅっ



「?!」

アシャンは目を大きく見開いて自分の唇を思わず押さえた・・・ジャンのそれが掠めていった唇を。

しかしその様子をたジャンは今までの保護欲を目一杯かき立てるような少年の雰囲気をどこへやら、ひどく意地悪な笑顔で言ってのけたのだ。

「誰もいないアシャンの心に今、僕を焼き付けたからね。
・・・これで、アシャンは僕の事しか考えられないよ?」

そう言うとジャンはあっさりアシャンから離れて背を向けると未だに硬直しているアシャンに笑い声投げかけた。

「じゃあね、アシャン。今日は楽しかったね!」

・・・・・・・・・アシャンが我に返ったのはそれからゆうに3分後。

「ジャ、ジャ、ジャ、ジャン様ーーーーーーーーーーーーー!!!」

アシャンの絶叫が爽やかな風の吹く森林公園に響きわたった。








(あれが、あれが、14歳のすること?!)

もう別の話題にうつっているファナとミュイールに適当に相づちを打ちながらアシャンの心の中はさっぱり穏やかでない。

(信じられない!3歳も年下なのに!あんなに可愛らしい弟みたいな方だと思ってたのに!)

不意打ちで奪われたのはファーストキス。

アシャンは引きつりそうになる頬を必死で押さえつつアシャンは口には出さずにこの一週間繰り替えし続けた宣言を叫んだ。

(もう、絶対!ぜっっっっっったい、ジャン様なんか好きにならないんだからーーーーー!!!)

・・・こうして、友達とのお茶会の間もジャンのことばかり考えている事に気がついていないアシャンは見事にジャンの罠にはまった。










                                            〜 FIN 〜





― あとがき ―
あはは〜、書いてしまった。ジャン×アシャン。
や、やっぱり私はジャン様が好きですわ〜v
絶対、ジャン様はこんな感じで年下だけど何か腹に一物的な食えない人物だと思えてしまって。
なんせ14歳にして聖騎士団長ですからね。
絶対、ただものじゃない!(力説・笑)